今日、アキラから突然のメール。
「お前を抱きたい」
「―――――!!!」
うおおぉぉおぁぁ!!
アァァァキラァァァァ!!!
俺は身も心も全て、全てアキラに捧げるよ!
あんなコトやこんなコト…もういっそのことメチャクチャにしてくれ!!
俺、アキラになら……何もかも奪われて構わない!!
残業を早々に切り上げて、全力で家へ向かう。
ゴムもローションも家にまだたくさんあるし大丈夫!
めくるめく妄想で頭の中がパンクしそうだ!
ていうか、俺、途中で我慢できなくて、アキラを襲うよな多分!
でもそれはそれでいいか!!
思考回路はショート寸前今すぐ会いたいよアキラァ!
あああ。
俺がもしサトラレだったら絶対捕まる!
うわぁ。めっちゃドキドキしてきた!!
商店街を駆け抜け、銭湯を横切り、幼稚園を右に!!
目の前に見えるボロいアパートの、今にも壊れそうな階段を2段飛ばしで駆け上がる。
鍵を開けるのにもたつきながらも、扉が外れそうな勢いでドアを開けた。
「アキラ!メールありがとう!!あんなメール勇気いるよね!でも俺、嬉しいんだ!アキラになら、俺の恥ずかしいとこを舐めたり吸ったりされてもいいからっ!だからっ、今日はアキラが気の済むまで、朝まででもいいよっ!俺を好きにしてっっっ」
「うわぁ……」
「おいおい。お前さんなぁ、ちっとは自重しろよ……」
「……………」
開け放たれたドアの向こうには予想外の人影があった。
「リン…と、源泉さん?」
「ははは。久しぶりだなぁ~。おじゃましてるぜ」
「おっかえりぃ」
状況が理解できなくて、俺は固まったまま動けない。
何でリンと源泉さんが?
アキラは?
そうだ!アキラ!
「アキラはどこに!?」
「アキラなら買い物に行ってるよ~^^」
リンが携帯をヒラヒラさせながら笑顔で答えた。
って………
「それアキラの携帯だよね!?何でリンが持ってるんだよ!?」
「ケイスケに連絡入れとけって、アキラが貸してくれた♪」
「え?連絡?きてないよ」
携帯を確認しようとポケットに手を入れる。
と、その瞬間ポケットで携帯が震えた。
―――やほー☆リンだよ♪
おっさんと遊びにきたよ~(^∀^) 早く帰っておいで~
「メール、今来た…」
「あらら…意味ないし」
「今日はなぁ、こっちにくる都合がついたから、みんなでメシでもと思ってな」
「そうなんだ……」
まさかの展開。
思わすうなだれる。
「お、ケイスケどうした?」
「久しぶりに会ったのに、嬉しくなさそう~」
「あ…そういうわけじゃ…」
嬉しくないわけじゃない。
むしろ会えて嬉しい。
2人ともどうしてるか気になっていたのは事実だし、会いたいとも思っていた。
だけど…タイミングが悪すぎる…。
よりによってどうして今日なんだ…。
「今夜はフォンデュパーティーだよ♪♪」
リンが満面の笑みでこちらを見た。
久々の再会を心から喜んでいるようだった。
―――俺は最低だ
アキラとは毎日一緒にいるじゃないか。
なのに、2人がいることを煩わしく思うなんて!
よし。
気持ちを切り替えて、2人をもてなそう!!
「ただいま」
ちょうどアキラが帰ってきた。
「アキラ!お帰り」
「ケイスケ。残業終わったのか」
「うん!かなり急いだ」
「そんなに急ぐ必要ないだろ」
「あんなメールもらって、急がないわけないよ」
「そうか」
スーパーの袋には、パン、フルーツ、野菜、チーズ、チョコレート、クラッカー、パスタが入っていた。
あとお酒とタバコも。
「今日は泊まってくんだろ?」
源泉さんにタバコを渡しながらたずねる。
「おう。悪いなぁ」
「今日はオール」
って…………………
え?
「ええええええーーーーーーーーっっっ」
思わす大声を上げた。
「なんだよ」
アキラが怪訝そうな顔で振り返った。
「あれあれ~?ひょっとしてケイスケは~、うちらが泊まると都合が悪かったりする~?」
「えっ、いや、あっ、そのっ」
「それはぁ、さっき家に帰って来た時に言ってた“舐めたり吸ったり”に関係することかな~~??」
リンの顔に意地悪そうな笑みが張り付いてる…。
まずい…。
せっかくアキラがその気になってるのに、このままだと…。
つんつん。
俺はアキラのTシャツの袖を軽くつまんで引っ張った。
「ん?」
「ちょっと」
玄関の隅で密談。
「なんだよケイスケ」
「今日2人を泊めちゃったらさ、できなくなるけどいいの?」
「何が?」
「アキラがいいなら、それでもいいんだけどね。明日、改めてでも……」
「だから何の話だよ?」
「さっきのメールだよ。あのメール。アキラからなんてビックリしたけど…溜まってるの?俺でいいの…?うまくできるかな…?俺、後ろは初めてだから……」
もじもじしながらアキラを見ると、頭の上にクエスチョンマークが。
あ、あれ???
「俺は今日、お前にメールなんて入れてない」
「え?」
「ぶははははははーーーーっっっっ!!!」
突然、けたたましいリンの笑い声が部屋中に響き渡った。
「あははははっ、はひっ、ひーっ、お腹イタい!いた、ぶはっ、あひっ…」
腹を抱えて、転がった姿勢で足をバタつかせている。
「ごめっ、ケイス、ケ!あれ、あれオレ!」
「だーから、やめとけって言っただろ~?」
源泉さんも肩を震わせながら俯いている。
「何だよ、2人とも?」
眉間に皺を寄せながらアキラが問いかけた。
「ケイスケにさ、アキラの振りしてメールしたのっ、したらさぁ~…あっはっは!」
「ええええええーーーーっっっ」
あのメールはアキラからじゃない!!??
じゃああの幸せな時間は!?
淫らな妄想は!?
バージン捧げる覚悟はぁーーー!!?
「何て入れたんだ?」
「はひ、それは、ケイスケに聞いて~」
すでにリンが過呼吸手前の状態だった。
アキラはオレに向き直ると手を差し出した。
「何…?」
「見せろよ、携帯」
言われるがままに差し出された手に携帯を載せた。
「……―――――!!!!?」
アキラの顔色かみるみる変わり震えだした。
「なんだコレは!?」
「だって~、今日はエイプリルフールじゃ~ん」
リンが涙を拭きながら起き上がった。
「だからって!」
「ケイスケがさ~、見事に引っかかってさ~」
「ケイスケ!!!」
「だって……!」
「はっはっは。家に入って来た時のケイスケの顔ときたら…ぶふっ」
それから家はてんやわんや。
怒ったアキラに、号泣する俺。
笑い転げ回るリン。
源泉さんは勝手にパーティー始めちゃうし…。
こんなドタバタはトシマ以来だ…。
懐かしさもこみ上げたり…。
でもまさかこんな手に引っかかってしまうとは自分が情けない…。
でも…アキラになら抱かれてみたいかも…。
「ケイスケ!!!」
「ごめんなさい!!!」
4・1
April Fool
「アキラ、起きて」
カーテンを勢いよく開けた。
外はすこぶる快晴だ。
「いい天気だな」
「うん」
アキラが眩しそうに目を細める。
こんな毎日が。
こんな毎日がこれからもずっと続けばいい。
アキラと一緒に。
ずっと。
「…なんだよ」
「え、なにが?」
「さっきからこっち見てニヤニヤしてるだろ」
しまった。
ついニヤけていたらしい。
でも、こういうのって、なんかこう……ふ、ふ、夫婦…みた、い…だよな。
「…今、夫婦みたいって思ってただろ」
「はっ…!!」
アキラが呆れた顔でこっちを見た。
俺ってどこまでも間抜けなんだよな。
「本当にいい天気だ~」
図星をつかれて、ごまかすように大きく伸びをした。
「……………」
「う………」
気まずい沈黙が痛い。
「いやあの、アキラと、け、け、結婚、できたら、いいな、とか…?」
「……………」
うあ。
やっちゃった…。
こんな気持ちのいい朝に、自己嫌悪。
なにやってんだろ俺は。
「結婚て…」
アキラはあからさまに大きなため息をもらす。
当然だ…。
「男同士で結婚できるわけないだろ」
「だよ、ね……」
そうだ。
アキラは正しい。
男同士で結婚なんてバカげてる。
できるわけない。
だけど…
俺は…
言葉が出ずに俯いた。
「ケイスケとトシマを出た時から…、お前とは一生一緒にいるんだって、漠然とだけどそう思ってる」
「え…」
「今までもこれからも、ずっとそういうつもりだ」
「アキラ…」
太陽の光が当たり、白いアキラの肌が透けるように見えた。
眩しくて、眩しくて、思わず目を細める。
だけどこのままアキラがすーっと消えてしまうような気がして、目を閉じることはできなかった。
あまりにも脆い、儚いもののように感じて。
触れたら壊れる?
だけどゆっくり手を伸ばして、そこにいるものが本物がどうか確かめずにはいられなかった。
「アキラ…」
頬に触れると、じんわりと温かかった。
くすぐったそうな表情をするアキラを見て、思わずそのまま引き寄せて抱きしめた。
「ケイスケ…」
「うん…」
「お前は、料理も掃除も得意だし、家計も安心して任せられる。それに、俺のことも良くわかってくれてる。だから、これからもよろしくな」
「うん」
あれ。
それって俺が奥さんてこと……?
Happy Wedding?
Keisuke Akira
3・15
ずかーん
だだだだっ
「わーっはっは!滅びろ人間共!薄汚い、汚らわしい愚民め!」
ひゃっはー
めんどくせーなー
どがーん
バキバキ
「やめなさい!」
「何者だ!?」
「悪の組織ヴィスキーオ!お前達の息の根、この俺が止める!」
ばーん
「ひゃっはー。かわいー子猫だぜぇー」
「お嬢ちゃんさぁ、名前はなんてんだ?」
「桜散る散る 風に散る! 光舞う舞う 風に舞う! 天から地に降る奇跡のオーラ! 悪は必ず一刀両断! 聖なる戦士 マゾっ子 アキラ!!」
じゃじゃーん!!
「貴様があの……!!」
「その悪趣味な仮面、真っ二つにしてやる!」
びしっ
「生意気なっ!お前たち、やってしまいなさい!」
ひゃっはー
しゃーねーなー
だだだっ
ガキーン!
びゅっ
ガッ
シャキーン!
「はっ!?」
「フフフ、貴様の所有者はこの俺だ!」
ガシッ
「あぁっ」
「体の奥まで暴いてやろう」
「あんっ」
カブッ
「はあッ…」
「お前と、共に…」
「んっ、んぁっ」
アアァーキラァー
「な、なに!?」
「これをさぁー、どうすると思う?」
「や、やめ…!」
ああああああああああああーーーーーーーーーーーッ!!!
「んっ、んっ、あ、はぁ、だめっ、いや…」
「狭いな」
「血が…好きだろう」
「すっごいエロいよぉ…アキラァ…」
「あ、はぁっ、……っ、あっ、ああっ、擦っちゃだ、め、あ、でちゃ、うっ」
「ア、キラッ……!!」
**********
「何それ…」
「マゾっ子アキラ…?」
アキラの視線が痛い…。
「だから、なんなんだよ、そ れ は?」
アキラの口調から確実に怒りが感じ取れる。
俺はビクビクしながら笑うしかなかった。
元はといえば、深夜のちょっぴりエッチな萌え系アニメが悪い。
魔女っ子が悪い!!
魔女っ子=マゾっ子にたどり着いたっておかしくないし!
衝動のままに思い付いた話が「マゾっ子アキラ」だ。
アキラに見つかったことは計算外だったな……。
「な に が、マゾっ子だ!!」
瞬間、目の前がチカチカした。
アキラの左拳が俺の顔面にヒットしたらしい。
「ご、ごめっ……」
「今度こんなくだらないこと考えたら…」
アキラが再び拳を握りしめた。
「ロストが相手になるからな」
「ひっ……」
「…………何でシキやナノが出てくるんだ………」
「え!?」
END
最近、近所に新しいデリバリーピザの店がオープンしたらしい。
20%引きのチラシが入っていたので注文したら、俺の好みにドストライクの人が配達しに来た。
「ヴィスキオピザですけど」
「あ…はい…」
さりげなく胸の名札を見ると「アキラ」と書いてあった。
無愛想ながらも丁寧に対応してくれて、さらにオマケだとコーラをくれた。
「あの、お茶でもどうですか?」
「………は?」
「せっかく来たんだし、あがっていってください」
しかし、まだピザの配達があるからと誘いを断わられてしまった。
「コーラ、ありがとう」
「いやそれ、ピザ買ってくれた人全員にあげてるやつだから…」
明らかにドン引きした顔でアキラは帰って行った。
翌日もピザを注文したら、全身黒いレザー服の男が配達しに来た。
「開けろ。ヴィスキオピザだ」
「は、はい」
容姿端麗、眉目秀麗とはこの人のためにある言葉かもしれない。
おまけに背が高くて足が長い。
美しい外見とやけに偉そうな態度に、完全に萎縮してしまった。
「貴様だな。イル・レ スペシャルを注文したのは」
「はい。どんなのかなって思って…」
チラリと名札を見たら「カリスマ店員」とだけ書かれていた。
カリスマ…?
「ふん、腑抜けた面を晒すな。これがイル・レ スペシャルだ」
ふんぞり返ってピザの箱を差し出された。
「ど、どうも…。あの、アキラ…くんは、今日は…?」
ビクつきながら箱を受け取る。
カリスマさんはあからさまにビビる俺の様子を満足そうに眺めていたが、アキラの名前を口にすると眉毛がピクリと動いた。
「アキラ…だと…?」
「 はい…き、昨日配達に…」
いきなり目の前に光るものが突き付けられた。
最初はよく分からなかったが、よくよく見ると日本刀の切っ先だった。
「う、うわっ」
弾かれたように後ろに反ると、反動でしりもちをついてしまった。
「貴様ぁ…その間抜けな面でアキラに妙な色目を使ったのか?…まっぷたつにしてやる」
喉の奥で唸るように声を絞り出し、カリスマさんは日本刀をゆっくりと構え直した。
───なんでピザ屋の店員が日本刀をもってるんだろう…
人間は窮地に陥るとこんなどうでもいい疑問を抱くのか…。
しばらく漠然と事態を受け止めていたものの、段々に実感が湧いてきた。
俺はピザ屋に日本刀で命を狙われているのだ!
恐怖で体が竦んだ。
「おい、シキ。ピザひとつ配るのにどれだけ…」
ガチャリと玄関のドアが開き、アキラがひょっこりと顔を出した。
「って、わーっ!あんた何やってんだよ!!」
アキラは咄嗟に日本刀を取り上げると、カリスマさんを怒鳴りつけた。
「客に日本刀で斬りつけたらダメだろ!今日で何回目だ!?」
「ふん、この俺に説教か…?」
「うるさい!昨日入った新人バイトのくせに!」
なっ……!!
新人アルバイトだと…!?
こんなに偉そうなのに!?
名札は「カリスマ店員」なのにか!?
一体どういうことなんだ!?
「…大丈夫か…?」
しりもちをついて唖然とする俺に駆け寄り、手を貸してくれた。
「ありがとう…」
「いや、本当に悪かった…。代金は、いいから…」
「でも…」
「だからまた、注文してくれるか…?」
「も、もちろん!」
こうしてアキラとカリスマ店員(自称)は帰って行った。
「アキラ…」
呟いて、自分がまだ自己紹介もしていないことに気付いた。
「今度会ったら、きちんと自己紹介しよう」
そして携番とメアドを交換だ。
どこに住んでるのかも聞こう。
あわよくば告白もしよう。
しばらくピザのデリバリーは止められそうにないな。
もちろん明日もヴィスキオピザに電話しよう。
おわり
毎朝一本早い電車を利用していた。
電車は一本違うだけで、驚くほどに混み具合が違う。
といっても、アキラが乗車する駅からでは座ることまではできないが。
しかしどこの誰かも分からない人に触れられたり圧されたり、あまつさえ息遣いを感じることを思えば、この時間帯の車内は十分すぎるほどに快適だ。
ただひとつ、気に入らないことがある。
こと、というより人なのだが。
同じ時間の、同じ車両にいつも乗っている青年。
扉に背中を預けて立つアキラの視界に必ず入る位置に座っている。
アキラが乗るよりも前の駅から乗っているのだろう。
制服が違うので、同じ学校ではないようだが、頻繁に目が合う。
どうやらいつもこちらを見ているようなのだ。
現に今日も何度も目が合っている。
───知り合いだったか。
あまりにもあからさまに見てくるので、ひょっとしたらどこかで会ったことがあるのかとも考えたが、全く心当たりがない。
しかも目が合うと必ず微笑んでくる。
アキラにはこれがどうにも面白くなかった。
だったら電車を変えればいいという話なのだが、他人のせいで自らのペースを乱すのも癪に障る。
一本後の電車でも十分余裕で間に合うところを、更にわざわざ早いものにしているのだ。
そう簡単に変えたくない。
居心地の悪さを感じるものの、他に害はない。
目を閉じて、見ないようにしていればいいのだ。
電車の揺れと、タタン、タタンという単調な音が心地いい。
まだ見ているのだろうか。
薄く目を開けて様子を伺うと、バッチリと目があった。
───気に入らない。
目を開けた自分に舌打ちし、すぐに視線を逸らして目を瞑る。
目を閉じても瞼の裏にヘラヘラと笑う青年の顔が貼り付いて離れない。
アキラは言い得ぬ苛立ちを覚えた。
明日も明後日も、同じ車両で同じ思いをするのかと憂鬱になり、眉をひそめた。