毎朝一本早い電車を利用していた。
電車は一本違うだけで、驚くほどに混み具合が違う。
といっても、アキラが乗車する駅からでは座ることまではできないが。
しかしどこの誰かも分からない人に触れられたり圧されたり、あまつさえ息遣いを感じることを思えば、この時間帯の車内は十分すぎるほどに快適だ。
ただひとつ、気に入らないことがある。
こと、というより人なのだが。
同じ時間の、同じ車両にいつも乗っている青年。
扉に背中を預けて立つアキラの視界に必ず入る位置に座っている。
アキラが乗るよりも前の駅から乗っているのだろう。
制服が違うので、同じ学校ではないようだが、頻繁に目が合う。
どうやらいつもこちらを見ているようなのだ。
現に今日も何度も目が合っている。
───知り合いだったか。
あまりにもあからさまに見てくるので、ひょっとしたらどこかで会ったことがあるのかとも考えたが、全く心当たりがない。
しかも目が合うと必ず微笑んでくる。
アキラにはこれがどうにも面白くなかった。
だったら電車を変えればいいという話なのだが、他人のせいで自らのペースを乱すのも癪に障る。
一本後の電車でも十分余裕で間に合うところを、更にわざわざ早いものにしているのだ。
そう簡単に変えたくない。
居心地の悪さを感じるものの、他に害はない。
目を閉じて、見ないようにしていればいいのだ。
電車の揺れと、タタン、タタンという単調な音が心地いい。
まだ見ているのだろうか。
薄く目を開けて様子を伺うと、バッチリと目があった。
───気に入らない。
目を開けた自分に舌打ちし、すぐに視線を逸らして目を瞑る。
目を閉じても瞼の裏にヘラヘラと笑う青年の顔が貼り付いて離れない。
アキラは言い得ぬ苛立ちを覚えた。
明日も明後日も、同じ車両で同じ思いをするのかと憂鬱になり、眉をひそめた。