最近、近所に新しいデリバリーピザの店がオープンしたらしい。
20%引きのチラシが入っていたので注文したら、俺の好みにドストライクの人が配達しに来た。
「ヴィスキオピザですけど」
「あ…はい…」
さりげなく胸の名札を見ると「アキラ」と書いてあった。
無愛想ながらも丁寧に対応してくれて、さらにオマケだとコーラをくれた。
「あの、お茶でもどうですか?」
「………は?」
「せっかく来たんだし、あがっていってください」
しかし、まだピザの配達があるからと誘いを断わられてしまった。
「コーラ、ありがとう」
「いやそれ、ピザ買ってくれた人全員にあげてるやつだから…」
明らかにドン引きした顔でアキラは帰って行った。
翌日もピザを注文したら、全身黒いレザー服の男が配達しに来た。
「開けろ。ヴィスキオピザだ」
「は、はい」
容姿端麗、眉目秀麗とはこの人のためにある言葉かもしれない。
おまけに背が高くて足が長い。
美しい外見とやけに偉そうな態度に、完全に萎縮してしまった。
「貴様だな。イル・レ スペシャルを注文したのは」
「はい。どんなのかなって思って…」
チラリと名札を見たら「カリスマ店員」とだけ書かれていた。
カリスマ…?
「ふん、腑抜けた面を晒すな。これがイル・レ スペシャルだ」
ふんぞり返ってピザの箱を差し出された。
「ど、どうも…。あの、アキラ…くんは、今日は…?」
ビクつきながら箱を受け取る。
カリスマさんはあからさまにビビる俺の様子を満足そうに眺めていたが、アキラの名前を口にすると眉毛がピクリと動いた。
「アキラ…だと…?」
「 はい…き、昨日配達に…」
いきなり目の前に光るものが突き付けられた。
最初はよく分からなかったが、よくよく見ると日本刀の切っ先だった。
「う、うわっ」
弾かれたように後ろに反ると、反動でしりもちをついてしまった。
「貴様ぁ…その間抜けな面でアキラに妙な色目を使ったのか?…まっぷたつにしてやる」
喉の奥で唸るように声を絞り出し、カリスマさんは日本刀をゆっくりと構え直した。
───なんでピザ屋の店員が日本刀をもってるんだろう…
人間は窮地に陥るとこんなどうでもいい疑問を抱くのか…。
しばらく漠然と事態を受け止めていたものの、段々に実感が湧いてきた。
俺はピザ屋に日本刀で命を狙われているのだ!
恐怖で体が竦んだ。
「おい、シキ。ピザひとつ配るのにどれだけ…」
ガチャリと玄関のドアが開き、アキラがひょっこりと顔を出した。
「って、わーっ!あんた何やってんだよ!!」
アキラは咄嗟に日本刀を取り上げると、カリスマさんを怒鳴りつけた。
「客に日本刀で斬りつけたらダメだろ!今日で何回目だ!?」
「ふん、この俺に説教か…?」
「うるさい!昨日入った新人バイトのくせに!」
なっ……!!
新人アルバイトだと…!?
こんなに偉そうなのに!?
名札は「カリスマ店員」なのにか!?
一体どういうことなんだ!?
「…大丈夫か…?」
しりもちをついて唖然とする俺に駆け寄り、手を貸してくれた。
「ありがとう…」
「いや、本当に悪かった…。代金は、いいから…」
「でも…」
「だからまた、注文してくれるか…?」
「も、もちろん!」
こうしてアキラとカリスマ店員(自称)は帰って行った。
「アキラ…」
呟いて、自分がまだ自己紹介もしていないことに気付いた。
「今度会ったら、きちんと自己紹介しよう」
そして携番とメアドを交換だ。
どこに住んでるのかも聞こう。
あわよくば告白もしよう。
しばらくピザのデリバリーは止められそうにないな。
もちろん明日もヴィスキオピザに電話しよう。
おわり