時々思う。
俺は何のために生きているのか。
安らかな寝顔を見せる幼なじみ。
その穏やかな表情の裏側には癒せない傷と罪がある。
それはどんなことをしても消えるものではない。
死ぬまで向かい合っていかなければならない問題だ。
それでも笑顔でいられるのは誰のおかげでもない。
あいつ自身の強さだ。
それ以外の何物でもないことは、俺が一番よく理解しているつもりだ。
「アキラがいるから」
だったら、何故そんなことを?
そんな風に思ってもいないことを簡単に口にしないでほしい。
それとも俺に気を遣っているつもりなのだろうか。
俺を求めるのはどうして?
俺を抱くのは何のため?
性的な欲求を満たすため。
幼い頃の劣等感を晴らすため。
それとも力こそ全てだと、俺に教え込むつもりか。
心の隙間を埋めているのは、むしろ俺だ。
抱かれることで、自分を必要とされていると思い込みたい。
さしずめそんなところだ。
俺はに何もない。
辛い過去も、劣等感も、寂しさも、何かを強く求めることも。
俺は強くなんてない。
強いのはあいつだ。
結局、俺は何一つとしてあいつのためにできることはないんだから。
隣で眠る幼なじみの、警戒心を微塵も見せない姿に、とてつもなく惨めな気持ちになった。
「アキラ…」
不意に呼ばれた名前に我に返る。
「眠れないの?」
「いや…悪い。起こしたか?」
「大丈夫だよ」
そう言って俺を抱きしめた。
無性に泣きたくなった。
あ、えっと、ケイスケです!
俺のアキラについてお話しします。
アキラはすごく格好いいです。
クールで強い。
俺は子供の頃からずっと憧れていました。
でも最近は格好いいだけじゃなくて、もっと色々なアキラを見るようになりました。
例えば、アキラはテレビっ子なんです。
バラエティーが大好きで、クイズ番組をよく見てます。
「ケイスケわかるか?」
「ケイスケどう思う?」
「ケイスケ答えてみろよ」
「ケイスケを試してやるよ」
いつも俺ばかりに答えさせようとしてきます。
特に漢字のクイズ。
自分は一切答えない…。
しかも間違えたり、わからなかったりするとバカにされます。
それからアキラには特技があります。
どんな歌でも、アキラが歌うとラップになっちゃうんです。
ドリカムも平井堅もね。
アキラは意外に歌を歌うのは好きみたいで、たまに口ずさんだりしてるのを聴いたりするけど、
何を歌っているのかは不明。
「EXILEだ」
「うそっっ!?」
EXILEはラップなんかないよ。
アキラは甘党です。
フルーツパフェと苺大福が好きです。
アキラはファミレスに行くとパフェは絶対食べる。
「お前、チョコパフェ頼めよ」
「え?パフェはちょっと…。コーヒーでいいよ」
「お前のチョコパフェと俺のフルーツパフェ半分こずつ食べよう」
「半分こ…」
“半分こ”の響きにやられて俺も必ずパフェを頼みます(笑)
「アキラあーんして」
「あーん」
「アキラ…(照)」
こんなことができるのなら、俺はいつでもパフェを頼む!
アキラは寝つきがいいです。
「おやすみ」
の3秒後には寝てます。
のび太くんみたいです。
だからイチャイチャしたくても、できない…。
一度寝込みを襲ったら、フルボッコにされた。
しかも寝たままのアキラに。
めちゃくちゃ強いんだもん!!
なんかもう“無”の境地だから、神憑りだね。
それからは「おやすみ」の前にイチャイチャするようにしてます。
アキラと一緒に暮らし始めて、もっともっとアキラを好きになった。
アキラも同じくらい俺のこと好きでいてくれますように。
ケイスケ
「アキラ。お茶入ったよ」
「ああ…」
夕食の後に飲むアキラのお茶は、少し薄めのお茶。
ケイスケは渋めのお茶。
「最近は冷えるよね。雪が降ったとこもあるみたいだよ」
「雪?ずいぶん早いな。まだ11月だぞ」
「アキラ、風邪ひくなよ」
「ケイスケもな」
こうして他愛のない話をする日常。
毎日退屈な日々が丁度いいし心地いい。
「ケイスケ」
「何?」
少し間をおいて。
「いつも…ありがとな」
「な、何!?アキラどうしたの?」
「俺は、こうしてお前と過ごす毎日が当たり前だと思いたくない。
今こうして過ぎる時間も見える景色も、すべてだ。
お前がいなかったら俺には何も感じられなかったし、何も見るとこはできなかった」
「アキラ………」
アキラは小さく微笑むと、ケイスケのいれた薄めのお茶を飲んだ。
「だけど…お前が一緒だったから…」
湯呑みを持つアキラの手を、ケイスケは両手で覆った。
「アキラ、これからもずっと二人で同じ時間を過ごそう?同じ景色を見ていこう?」
「ああ…」
11月22日
いい夫婦の日
恋を、してしまった。
俺は犬。
アキラは猫。
身分違いの恋だってわかってるのに。
昔から何をやっても要領が悪くて失敗ばかりしてた。
頑張っても報われないこともあった。
多くを望むことが、どれだけ身の程知らずか分かってるつもりだ。
だけど、初めて、自分が自分でないくらい執着してるのがよくわかる。
自分は諦めがいい方だったはずなんだけど。
アキラに対してだけは違う。
アキラだけは絶対に、誰にもとられたくないって思う。
こんな気持ちははじめてだ。
どうしよう。
どうしようどうしよう。
こわい。
このまま、想っていてもいいのかな。
見ててもいいのかな。
俺のことも見てくれるかな。
この気持ちが通じることはないのかもしれない。
ひょっとしたら拒絶されるかもしれない。
けど俺、アキラを守りたいんだ。
ずっと守りたいんだ。
アキラが…好きなんだ。
強く凛としたアキラの目。
誰も近寄らせない雰囲気。
アキラには自分を守る力や術がある。
アキラはきっとひとりでも大丈夫だって思ってるだろうな。
実際そうだし、俺なんかがいても邪魔なだけなのかもしれない。
だけどアキラ。
俺は真剣なんだ。
この気持ちを大事にしたいし、力になりたい。
どんなことでも。
一緒にいたい。
一緒に笑いたい。
一緒に悩みたい。
一緒に歩みたいんだよ。
仕事帰りにアキラとよく買い物に行く近所の商店街。
クリスマスが近いこともあってか、ライトアップされていた。
小さな商店街だ。
だからライトアップといっても本当にショボい。
しかし、ムードを味わうには十分だ。
買い物を終えてアパートに帰る途中、アキラが商店街の方を振り返った。
さっきまで自分たちのいた場所がキラキラしてた。
「きれいだな」
アキラがポツリと呟いた。
「うん。でも、アキラの方がきれいだ」
「・・・・・・・・・」
呆れたような眼差しでこっちを見るアキラ。
でも本当にそう思うんだ。
アキラはきれいだ。
「ごめん。嬉しくないよな、きれいなんて言われても」
適当に笑ってごまかした。
そしてまた、家に向かって歩き出す。
買い物袋をぶら下げて。
二人の家に帰るんだ。
「ケイスケ」
「ん?」
「・・・・・・」
「アキラ?」
「さっきの・・・」
「さっき?」
「きれいだって・・・」
「ああ・・・あれは・・・」
「ありがとう」
「え」
「嬉しくなかったわけじゃない」
「アキラ」
それからアキラは何も言わなかったけど、手を握ったら握り返してくれた。
もう寒いけど、アキラと一緒なら大丈夫だ。
明日も明後日も、その次の日も毎日、ずっと、アキラと手をつないで帰りたい。