仕事帰りにTSUTAYAでポニョのDVDを予約した。
アキラ喜んでくれるかな。
「アキラー ケイスケー 好きーーー」
って言ってくれたら萌える。
ケイスケ
ケイスケが口の中の飯を一気に吹き出した。
吐き出された米粒は唾液でキラキラと輝きながら宙を舞っていった。
汚い。
「な…んなっっっっっ!?」
かなり動揺しているのか、ケイスケの声がいちいちデカい。真っ赤な顔をして白シャツを見ている。
しかも顔中米粒だらけだ。
汚い。
「ねね、しよ?」
「な、なにを!?」
「エッチ」
「ええっっっ!?」
ケイスケの声が完全に裏返っている。
白シャツは立ち上がると、ケイスケの首に手を回し顎のあたりに軽く唇を押し当てた。
「はひ!?」
ちゅ、と軽く音を立てると、今度はそのままゆっくりと上へ。
熱を帯びて真っ赤になったケイスケの耳に舌を差し入れ耳たぶを優しく噛んだ。
「はぁっ…!」
左足をケイスケに絡ませたり、膝で股間を擦ったりしながらケイスケを刺激していく。
からかうように上目遣いをしながら、胸元までちらつかせている。
違う世界といえども、こんなやつが自分だと思うと段々ムカついてきた。
さらにはその挑発にまんまとのせられて、しどろもどろしてるケイスケにも腹が立った。
「いい加減にしろ!」
今日はアキラの機嫌が良かった。
どんぐらいいいかというと、仕事中に鼻歌を歌うくらいのご機嫌ぶりだった。
さらにすごいのは、曲がポニョだったということ。
一体アキラに何があったんだろう。
ケイスケ
「ケイスケって、エッチはどうなの?」
「は」
「上手いの?下手なの?」
いきなりなんなんだ。
あまりにも唐突な質問に答えあぐねていると、ケイスケが隣で俺をガン見していた。
「…なんだよ」
「えっ、いや、あの、アキラ、その…どう、なのかなって、その、俺の、あの…」
………ウザい…。
もじもじしながらテーブルに指で「の」の字を書きまくっている。
「そんなこと、他人に話すことじゃないだろ」
「他人じゃないよ。同一人物じゃん」
白シャツが俺にウィンクしてきた。
冗談じゃない!
どこが俺と同一人物なんだ!
俺が睨みつけると、おどけたように肩をすくめた。
「はい、おまち」
険悪なムードの中、店のおやじの声とうまそうな匂いが広がった。
焼きサバ定食と生姜焼き定食だ。
ケイスケが運ばれてきた膳を受け取り、割り箸と一緒に俺の前に置いた。
「はい、アキラ」
「あぁ。ありがとう」
俺たちは白シャツを無視して、それぞれ運ばれてきた料理を食べ始めた。
味噌汁をすすり、茶碗に大盛に盛られた飯をかっ込む。
テーブルに両肘をついてその光景をしばらくは黙ってじっと見ていた白シャツだったが。
「ケイスケとエッチしたい」
「ぶばっっっ」
「…………」
突っ伏していたケイスケが顔を僅かに浮かせて、目だけで白シャツを見ていた。
膝を曲げて、足をモジモジと動かしている。
こいつら……本当に最低だな。
というより、そういう目で見られている対象が、世界が違えども俺だという事実が気持ち悪い。
変態2人に構わず話を進める。
「で?」
「…なにが?」
「“なにが”じゃないだろ。何しにきたんだよ。俺たちに用があるんじゃないのか?」
俺の冷ややかな視線を気にも止めず、白シャツは涼しげに笑う。
認めたくないが、目の前のこいつは間違いなく俺だと思う。
シキの言うことを信じるなら、違う世界の俺。
一体その世界で俺に何があったのかは知らないが、わざわざ次元を超えてきたのならそれなりの理由があるはずだ。
いや、あってもらわないと困る。
「あーあ。ジュース飲んだらオシッコしたくなっちゃった~」
「…トイレに行けばいいだろ」
「でも~、面倒くさいな」
白シャツがチラリとシキを見た。
「フ…ならば俺が代わりに行ってやろう」
シキがすっくと立ち上がる。
「意味ないだろそれ!」
瞬時にツッコんだが、なぜか誇らしげな表情を見せると、きびすを返し颯爽とトイレへ向かった。
…完全に馬鹿だ。
その様子を見届けてから、白シャツは俺に向き直る。
「んふ。かわいいでしょ」
どうやらトイレに行きたいというのは嘘だったらしい。
あのシキを自在に操るとは…こいつ、ただ者じゃないな。