しん、と静まり返った12月31日。
もうじき今年が静かに終わろうとしてる時刻だ。
。
テレビからは、今年を振り返るような話題やニュースが聞こえてくる。
目の前には、この1年、ずっと俺を気遣い隣にいた男がテレビを見ている。
「今年は政界大変だったよね、アキラ!」
「そうなのか」
俺とは趣味も興味の対象も違うツレ。
俺と一緒にいて、一体何が楽しいのか。
あいつに特別に何かをしてやったわけでもないのに。
毎日、ただ毎日を俺と過ごすことに退屈を感じないのか。
テレビからは今年を締めくくるような話が聞こえ、なんとなく頭の中でこの1年を振り返る。
「………」
特別変わったことは思いつかず、思わず苦笑してしまった。
その様子を不思議そうに見る幼なじみ。
「どうしたの?」
「いや…」
コタツの上にはみかんとピノ。
これすらいつもと変わらないのだ。
ピノのひとつにピックを刺して、食べようと口元へ持っていく。
と、ふと。
「ケイスケ」
「ん?」
何も疑わない、優しい眼差しで振り返った口元にそれを寄せた。
「へっ!?」
真っ赤な顔で目を見開いた。
ピノと俺を交互に見ながら明らかに動揺の色を滲ませている。
「いらないのか?」
「え?あ、いや、た、食べるよ!うん!いただきます」
その様子がおかしくて、そしてなんか、あったかいものが込み上げた。
「アキラ」
急にコタツから出て俺の前で正座した。
「何だよ、改まって」
「いや、あのさ…」
少し照れながらも、俺を真っ直ぐに見据えた。
「今年も1年、本当にありがとう。アキラと一緒に過ごせて楽しかった!」
「なんか、別れの挨拶みたいだな」
「えっっ!!?ち、違っ……!そんなつもりじゃ、お、俺…」
俺の横槍に用意していた言葉を忘れたのだろう。
慌てふためいて変な汗をかいている。
こういうところは昔と全然変わらない。
「と、とにかく…!!」
咳払いをして、また体制を整える。
「ら…来年もっ、来年もずっと一緒に、2人で一緒に楽しく…」
そこまで言って口ごもった。
「どうした?」
「……………」
「聞こえないぞ?」
「……………」
よく聞き取れず、耳を寄せる。
「すき」
「……………」
まったくこの男は…。
毎度芸がない。
というか、まったくワンパターンだ。
幼なじみは怖ず怖ずと顔を寄せてきた。
こいつは…。
俺の呆れ顔に気付いて、ピタリと動きを止める。
「……………」
「……………」
きっと来年も、いやずっとこいつは変わらないんだろう。
「ケ、ケイスケ…」
無性に笑えてきた。
「ア、アキラ…?」
俺は驚いた幼なじみの顔に、自分で唇を寄せた。
「!!?」
「ケイスケ、来年もよろしくな」
遠くで除夜の鐘が聞こえた。