1年という月日は長いのか短いのかわからない。
あっという間な気もするし、だけど今年の1月1日を思い出そうとするとひどく昔のことのように思える。
「アキラ、これで全部だよ」
「ああ」
今日は大掃除。
新年を気持ちよく迎えるための第一歩だ。
それにしてもどこからこんなにゴミが出るのか。
普段の生活で出るゴミは、週に2日のゴミの日に毎回きちんと出している。
なのに、改めて大掃除をすると山盛りになるこのゴミは一体どこからやってくるのか。
1年とは本当に侮れない。
「工場長が1t半出しでくれるから助かるね」
「そうだな」
工場長の家も大掃除ということで盛大に家の中をひっくり返したらしく、粗大ゴミや不燃物を直接トラックに積んでゴミ処理センターに持って行くらしい。
「お前らも何かあればついでに持って行ってやるぞ!」
いつものようにガハハと笑ってくれたので、それに甘えることになったのだ。
「しかし…けっこう出たな…」
「マメに掃除してるつもりだったんだけどな~」
ケイスケが首から下げたタオルで汗を拭う。
「ケイスケがいらない物を買いすぎなんだろ」
「例えば?」
「雑誌」
「………」
ケイスケは言い返せない。
お出かけガイドブックや、グルメ本、占い雑誌なんかの類はみんなケイスケだ。
「アキラだって」
「何だよ」
「食玩」
「………」
……言い返せない。
おもちゃ付きのお菓子はみんな俺がコンビニやスーパーで買ったものばかりだ。
「これはコレクションだろ。ゴミじゃない」
「集めてるシリーズが多すぎだよ」
ケイスケが困った表情を見せた。
なつかし給食シリーズ1、2
楽しいファミレス
寿司ネタシリーズ
昭和のおかず
かわいいsweets
パフェコレクション
などなど…。
…ちなみにまだまだある。
「アキラ自身は食に興味ないくせに、新作が出るとすぐ買うじゃん」
「まさか捨てたのか!?」
「かぶってるやつはね」
思わず両頬を膨らました。
かなり不服だ。
だまって捨てるなんて。
「こういうのは同じ物がいくつもあったって仕方ないだろう?」
「…………」
「コンプリートすることが目的なんだから、3つも4つも必要ないじゃん」
「…………」
「現に飾ってるのは1種類ずつじゃん。2つ目からは引き出しに入れたままだよ?」
「…………」
ケイスケが根気よく諭してきた。
と、そこでチャイムが鳴った。
「おーい、ケイスケー、アキラー、ゴミはまとまってるかぁ?」
大きく通る声が聞こえてきた。
急いで玄関を開ける。
「おはようございます」
「おう!持ってくもんあるか?」
「あ、はい。これお願いします」
ケイスケが一杯になったダンボールを2つ工場長に見せた。
「わざわざすみません。結構出ちゃったんですが、大丈夫ですか?」
「こんだけか?楽勝だ!任せとけ!」
全く頼もしい。
「あ、このゴミ下まで運びますよ。重いし」
俺はダンボールのひとつを抱えた。
ケイスケがもう片方を抱えるとトラックまで運んだ。
「うわ…」
トラックを見て唖然。
想像を絶するゴミの量だ。
俺たちのゴミがギリギリ載るくらいだ。
「俺がよ、家が汚ねえなって言ったら、カミさんのやつ、躍起になって大掃除しやがってな」
さすがの工場長も苦笑していた。
それでこんな…。
これは手当たり次第に捨てたな。
俺たちのゴミをうまい具合に積み上げ、シートとゴムベルトで固定した。
「よーし、いいな!」
「じゃあお願いします」
俺たちは深々と頭を下げた。
「おう。ところでお前ら、正月はどうすんだ?」
正月。
多分、というか絶対に特別なことはしないだろう。
毎年、ケイスケと何気なく過ごしてるな。
ケイスケは出かけたがるが、初詣や初売りなんかはやたら混んでて、疲れる。
「何もないんだったら、家へこいよ!雑煮でも食わせてやるよ!」
「え…いいんですか…?」
「当たり前だろ!お前らは息子も同然なんだからよ」
工場長はガハハと笑う。
工場長のガハハは本当に安心する。
「遠慮すんなよ、いつでも来いよ」
「はい。じゃあおじゃまします」
「おう!じゃあな!」
工場長はトラックに乗り込んで、豪快に去っていった。
「あー、たくさん動いたら腹減ったなー」
工場長が見えなくなるまで見送ってから、ケイスケが大きく伸びをした。
「もう昼過ぎだもんな…」
掃除に夢中で時間をすっかり忘れていた。
「俺、何か作るよ」
ケイスケがいそいそと部屋へ戻って行った。
俺も後に続きながら、今年の正月はケイスケと初詣にでも行こうかと考えていた。