見てはいけないモノを見た気がする…。
「お前らぁー、アッキアキにしてやんよー♪♪」
アキラがビール瓶をマイク代わりに、陽気に歌うなんて…
俺の人生で一度も考えたことなんてない。
まさしく、
俺史上初!!
今日は工場の新年会で、近所の居酒屋を貸し切っての大宴会が催されている。
「アキラ、飲み過ぎだよ」
「うるさいなぁ。ケースケはぁ。俺は酔ってないろ」
…酔ってる。
完全に酔っ払いだ。
俺の心配とは裏腹に工場の連中はかなり楽しんでいる。
そりゃそうだ。
普段は仏頂面で無口なアキラが「アッキアキにしてやんよ」って言ってるんだ。
盛り上がらないわけがない。
「アキラー、いいぞー!」
「踊れ踊れ~」
「わははははは!お前面白いな!」
色んな場所から飛んでくる声援に応えながら、アキラは超ご機嫌な様子だ。
ったく。
あの酔っ払いオヤジどもめ。
アキラはニコニコしながら、グラスのチューハイをイッキ飲みしている。
「ありゃー、アキラのやつ、ちっと飲み過ぎだなぁー」
唯一、工場長だけが心配してくれていた。
さすが工場長だ…。
「止めてきた方がいいんじゃねぇのか?」
「ですよね。俺、ちょっと止めてきます…」
アキラは普段、酒なんて飲まないから、どう対処するべきなのか悩むな。
とりあえずアキラのがぶ飲みを止めるべく、グラスを取り上げた。
「あっ!」
「もうやめた方がいいよ」
「返せよ!」
アキラが取り返そうと手を伸ばす。
飲んでいるせいか、動きにまったくキレがない。
簡単にかわせた。
「返せよっ」
「だめ」
俺はグラスを持った手を真上に一杯伸ばした。
アキラは懸命に腕を伸ばすが、あと少し足りない。
「もおー、返せよ」
アキラが両腕を伸ばしてぴょんぴょん飛び跳ねた。
「か、かわ……」
かわいい……!!
なにこの小動物!?
「も…ばかぁ…えぐ…」
「ぅえ!?」
アキラの両目から涙が溢れてボタボタと零れ落ちた。
泣かせちゃったーーーーーー!!!!
「おいおいケイスケ、泣かせるなよ」
「いーじゃないか飲んだって」
「アキラいじめんなよ」
あちこちから野次が飛んだ。
うああ。完全にヒールだあぁ…。
「うっ…うっ…この悲しみを歌にしましゅ…」
アキラが再びビール瓶を片手に歌い始めた…。
「いいぞアキラー!」
「ありがとーみんなぁー」
号泣しながら歌ってる。
この人本当にアキラか……?
まあ、本人が楽しんでるならそれはそれでいいか…。
少し羽目を外すのも息抜きになるしな…。
「ほら、ケイスケもマイク持てよ」
アキラがビール瓶を差し出してきた。
「あ、いや、これ、マイクじゃないし…」
「じゃあこれがマイク?」
「!!!???」
アキラが俺の股間を鷲掴んだ。
しかも下ネターーーーーー!?
「ア、アキラやめろよ!」
とっさにアキラの手を乱暴に跳ね退けた。
「なっ…なんだよ!いつもはお前の───を俺の──の──に───んで───てくるくせにーーーっ!!」
「わーっ、わーっ、わーっ、わーっ、わーっ、わーっ、わーっっ!!!」
俺は大声を上げてアキラの爆弾発言をごまかした。
あとは笑って切り抜けろ!相手は酔っ払いだ!
しかし危ない!
これはかなり危ないぞ…!!
「よ~し、アキラ、脱っぎまーす☆彡」
アキラがおもむろにTシャツを脱いだ。
だああーっ!
何してるんだーっ!!
「アキラ!!」
俺は素早くアキラを脇に抱えて、会場の外へダッシュした。
「はー、もう絶対飲み過ぎだよ、アキラ~…」
「俺は酔ってないのらー」
「酔ってるよ」
まさか人前で脱ぐとは。
みんなに見られたじゃないか、アキラの体。
白い肌…
ピンク色の乳首…
それから…
昨日つけたキスマーク……………!!
「いや、見られてない!!」
見られてませんように…!!
「ケースケ怒ってるのか…?」
頭を抱えたしゃがみ込む俺を、申し訳なさそうな顔でアキラが覗き込んできた。
「キスしていいから…怒るなよ」
「へ!?」
「キスしてもいいから」
アキラ…。
何、その表情!
顔を赤らめて、下を向いてる。
ごくり。
「アキラ…」
「ケースケ…」
アキラがゆっくりと目を閉じて、軽く顎を上げた。
アキラの柔らかい唇に自分のそれを重ねると、数回啄むようにしてから舌を入れた。
「ん…む……」
「…キラ…」
「ぅ…ん、はぁ、ケイ、スケ…」
「ん…」
「吐きそう」
「え!?」
「ぐ…ぅぶっ…!!」
「わーーーっ、待って、アキラ、トイレまで我慢…」
そして俺の悲鳴が響き渡った。
「おう。気をつけて帰れよ」
「…はい…」
あの直後、モロにアキラのモノをくらってしまった俺とそのまま寝てしまったアキラ。
とても飲みの席に復帰できる状態ではなくなり、帰る事にした。
「すんません。迷惑かけて」
「気にすんな!誰もなんとも思っちゃねーよ!むしろ面白かったんじゃねーのか?」
工場長はいつものようにがははと笑ってくれた。
心底、ありがたいと思った。
俺は工場長に再度礼を述べ、アキラを負ぶって店を出た。
「ケーシュケェ…」
「……………」
まったく無邪気な寝顔。
アキラには今後一切お酒は飲まさないと固く誓う。
……でも、家でならいいよね。
可愛かったし…。
じゅるり。