目が覚めると、1番大切な人が隣で静かに寝息をたてている。
いつもそれを見て、幸せな気持ちでいっぱいになる。
そしてそれと同時に押し潰されそうな不安が襲う。
───この日々はいつか終わりがくるのではないだろうか?
この甘い感覚が失わる恐怖を感じる。
不意に、愛おしい人が寝返りを打ち自分に背を向けた。
抱きしめたい衝動に駆られたが、思いとどまる。
今、この時、この世界には2人しか存在しないのだ。
そんな時間が、もしも触れたことで壊れてしまったら…。
笑顔も、ぬくもりも、全てが夢だったとしたら…。
それが無性に恐ろしかった。
「…イ…ケ……い…」
何事か小さく呟いて、身を縮ませた。
「…アキラ?」
「…さ…い…」
もっとよく聞き取ろうと、後ろから近づいた。
「ケイスケ…寒い…」
俺はそのままその背中を抱きしめた。
きっと無くならない。
消えない。
「アキラ…」
しばらくその背中に頬を寄せて目を閉じた。
あの頃、ただ追いかけるだけだった背中。
見るだけで、届かないと思っていた背中。
今はこうやって抱きしめている。
そして気付いたこと。
思っていたより小さかったということ。
俺が絶対守らなければ。
「ケイスケ…」
「ごめん!起こしちゃった?」
「いや…」
「おはよう、アキラ」
きっと俺はかなりデレデレして間抜けな顔をしていることだろう。
毎日一緒にいても、それは決して当たり前じゃない。
毎日好きだし、その気持ちはいつも新鮮だ。
「お前って、体温高いよな…」
「え?」
「背中、お前の体温がモロに伝わってくる」
「暑い?」
「……いや、心地いい…もう少しこのまま…」
背を向けた恋人が、恥じらいながらも今度は体ごとこちらに向き直した。
「あ……」
俺の胸に顔をうずめて、恋人は再び目を閉じた。
「寝正月だな…」
俺は苦笑して、胸の中の愛おしい人を抱きしめた。