2月13日 アキラ
近所のスーパーに買い物に行っていたケイスケが、たくさんの荷物を抱えて帰ってきた。
「ただいま」
どさっ
「お前……どれだけ買い物してきたんだ?」
うちは2人暮らしだぞ。
いくら俺たちが食べ盛りの男だからって、それは一体何日分あるんだ?
「まいったなー……」
ケイスケは頭を掻きながら口をへの字に曲げた。
「買い物の荷物はこれだけだよ」
白菜
しいたけ
ねぎ
とうふ
お。今日は湯豆腐か。
「じゃあそっちの荷物は?」
「うん……実は」
やたら大きな袋の中にはきれいな包み紙の箱がどっさり……。
なんだコレ?
「商店街歩いてたらさ、お店のおばちゃんとか常連のおばちゃんとかが“ケイスケちゃん明日はバレンタインよ。はいチョコレートあげるわねっ”“ケイくんにはいつもごひいきにしてもらってるからねぇ。はいコレ!”とかいう感じでどんどん集まってきて……商店街から出たらこんなになってたんだ」
どんだけおばちゃんに大人気だよ。
「果物も入ってる」
「たぶんニコマートのおばちゃんだ」
ああ……八百屋の。
「すっかり遅くなっちゃって、ごめんねアキラ。すぐ用意するから」
「ああ」
ほどなくして、ちゃぶ台に今晩の夕食が並んだ。
**********
食事を終えると、いつものようにテレビタイム。
テレビからは明日の“イベント”の話題ばかり聞こえてくる。
「あ、あのさっ、アキラ……」
そしてさっきからケイスケがそわそわしてる。
「なんだよ」
「あー……、明日、俺、出勤なんだ」
「知ってる」
「うん……だよね」
ケイスケは何か言いたそうな顔をしていたが、俺はあえて無視した。
「そろそろ寝るか。お前、明日早いんだろ?」
「う、うん」
2月14日 ケイスケ
はー……。
アピールが足りなかったのかな……。
欲しかったな、チョコレート。
仕事をしつつ、俺の頭の中はバレンタインのことでいっぱいだった。
そりゃ、俺たちは男同士だし?セックスはするけど、だからといってアキラが女の子だってわけじゃない。
どっちかと言えば俺の方が女々しいし、アキラの方がチョコレートが好きだし?
「でもっ……」
ピピピ……
携帯が鳴った。
メールだ。
「アキラからだ……」
――昼メシ、お前のカバンに入れといた。ソリドだけど。
「あ……もうそんな時間か」
時計を見たら12時を少し回っていた。
「休憩はいりますー」
事務所の休憩室でひと息ついた。
すでに山岡さんと工場長が休憩に入っていた。
「おう。ケイスケ、お疲れさん」
「っす」
カバンを開けると、アキラの言う通りソリド入っていた。
しかも3つも。
「えっと……グリーンカ……あ……」
グリーンカレーのソリドの他に、チ、チョコレートソリド……。
(しかもビターチョコとクランチチョコの2種類!!)
アキラ……ちゃんと用意してくれてたんだ……。
アキラ……。
「あ、アギラァ……」
「おいケイスケ、何泣いてんだ?気持ち悪ぃな」
「鼻水ふけよ!汚ねぇな!」
俺は山岡さんと工場長にドン引きされる中、涙と鼻水とよだれと一緒にチョコレートソリドを食べた。
end