急に雨が降り出した。
「まいったなー…」
天気予報では降水確率0%だったのに。
予報を信じて洗濯物を干してきてしまった。
早く取り込まなきゃ。
小走りで家に向かっていたが、途中で「今さら急いだところで結局同じことだな」と思い直して、歩いて帰ることにした。
「あーあ、びしょ濡れだ」
家に着いたら洗濯物を取り込んで、洗い直しだ。
少し早いけどついでに風呂にも入ってしまおう。
あれこれ思いながら歩いていると自然と足早になる。
角を曲がると、すぐに見えるボロいアパート。
そこの二階が俺の家。
小さいながらも愛着のあるわが家だ。
いつ壊れるかわからない階段を上ろうと足をかけると、何か動く気配に気づいた。
「………?」
鉄筋で簡単に作ってある階段。
その階段と建物の狭間に小さな猫がいた。
「はっ!あ…」
まだ子猫だ。
「よしよし。かわいそうに。捨てられちゃったのか?」
グレーっぽい色の猫だ。雨に濡れて震えている。
「ほっとけないし…取り敢えず、連れて帰ろう」
そっと猫を抱きあげると、「にゃ」と小さく鳴いたが抵抗はしなかった。
「さて、と」
タオルで髪の毛を無造作に拭きながら、猫を見た。
今は布団にくるまって寝ている。
自分より先に猫の濡れた毛をきちんと拭いてやった。雨に濡れて暗く見えた毛色は、乾くときれいな銀髪となった。
「いつまでも“猫”じゃな…」
名前をつけなければ。
俺は猫の様子をじっと見た。
視線に気付いたのか、猫は目を開けると視線だけでこちらを見た。
起こしてしまったみたいだ。
「そういえばお前はオス?メス?」
おもむろに取り上げて、腹を見ようとした。
ずがっっ
「ふぐっっっ」
右後ろ足で思い切り顔を蹴られた。
しかも前蹴り!?
なんてパワーだ…。
「ご、ごめんごめん…。でもオスなんだな」
顔をさすりながら謝る。
恥ずかしかったのだろうか。
とにかくオスだということはわかった。
「オスだからかっこいい名前がいいよな」
しばらく考えて。
「そうだ、キャ太郎なんてどうかな?キャットと太郎d……」
ドスッッ
「はぐあっ」
前足が鋭くクリーンヒット!
み、みぞおち入っ………っ。
なんで………?気に入らなかったのか?
しばらくうずくまり痛みに堪える。
「じ、じゃあ…ニャ太郎…ごふっ」
これもダメ!?
とにかく思いつく限りのイカした名前を並べてみる。
「白米太郎、フェニックス田中、万歳くん、IZAM、にゃんこ先生………………ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!!!」
俺と猫の攻防は数十分続いた…。
「はぁ、はぁ…じ、じゃぁ…」
そろそろネタ切れだ…。
どうしよう。
涙目で猫を見つめた。
「ア、アキラ…」
「………」
「アキラ…は、どうかな?」
「………」
「嫌…?嫌ならやめるから…俺…」
「にゃん」
「!」
猫が目を細めて鳴いた。
よかった!気に入ってくれたみたいだ。
「じゃあ今日からお前はアキラだよ。よろしく、アキラ。俺はケイスケだよ」
俺はアキラの鼻先を指で撫でた。
俺とアキラの生活が始まった。
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