駅前に、オシャレで美味しい本格カリーの店ができたらしい。
なんでも、ちゃんとインド人が作っていて、本場の味が手軽に味わえるんだとか。
ケイスケに誘われて、仕事帰りに食べに行くことになった。
小さいが、アジアンな外観なその店は、夕飯時ということもあってか数人が並んで待っていた。
「あ…並んでる」
「すごいな」
「アキラ…どうする?今日はやめる?」
「いや、せっかく来たんだ。並ぼう」
30分程並んで店内へ。
食欲をそそる匂いがすぐに鼻を刺激した。
ぐぅ。
仕事が終わった後だからか、空腹に耐え切れずあからさまに腹が鳴った。
慌てて押さえるが遅い。
「アキラ、お腹鳴ったよ」
ケイスケに茶化されてしまった。
「腹減ってるんだ。仕方ないだろ」
生理現象だというのに妙に気恥ずかしくなり、乱暴にメニューを開いた。
「ゴ注文ハ、お決マリデスカ…?」
メニューを見ていたら、カタコトな言葉が耳に入ってきた。
テーブルに2つの水の入ったグラスが置かれる。
店員が水を持ってきたようだ。
「オレはグリーンカレー。アキラは?」
「キーマカレー…マイルドで」
メニューから目を離して店員を見た。
「カシコマリマシタ」
ぺこ。
「………ナノ…」
店員は頭にダーバンを巻いたナノだった。
「……何してる…?」
「カレー…屋…」
「え!?ナノの店、なのか…!?」
「そうだ…」
なぜだ…?
なぜカレー屋をやってる?
しかもなぜインド人のフリをする必要があるんだ!?
ナノは何事もなかったかのように、厨房へ入って行った。
「まさか…ナノの店とは…」
「大丈夫なのかな…」
一抹の不安がよぎる。
程なくして、料理が運ばれてきた。
「タンドリーチキンは…サービスだ…」
「ありがとう…」
ナノはケイスケをちらりと横目で見ると、俺にまた視線を戻した。
「アキラ…」
「なんだ?」
「好きだ」
「だめえーーっっ!!!」
ずざざーーーっ!
ケイスケがナノとの間に割り込んできた。
「うわっ」
「はっ、早く!早く食べよう!そして早く帰ろう!!」
「ケイスケ、落ち着けよ…」
「ふ…」
ナノは不敵にに笑うと再び厨房へと戻っていった。
テーブルには注文した料理が一通り並び、改めてその本格さを目の当たりにした。
食器にもかなりのこだわりがうかがえる。
「すごいな」
「ナノって一体何者なんだ…?」
早速、焼きたてのナンと一緒に食べる。
「!!うまいっ…」
「わっ、美味しい!」
深みのある味に、爽やかな辛さ。
本当にうまい!
これをあのナノが作っているというのか?
信じられない。
料理はあっという間に完食した。
「アキラも全部食べたんだね」
「ああ」
本当にうまいものっていうのは、驚くほどに食が進むのだということを、身をもって経験した。
食後にサービスでコーヒーが出た。
「すごいね」
ケイスケが感服していた。
グリーンカレーがよほど気に入ったらしい。
「うまかったな」
俺も同意した。
「また来よう」
「ああ」
レジで。
「アキラの分の会計は…いらない…サービスだ…」
「え!いいのか!?」
「ああ…」
「悪いな」
「でもグリーンカレーは2倍の値段いただく…」
「意味ないじゃん!!!!!」