その日は朝から大雨だった。
まあ、梅雨といわれるこの時期は仕方のないことなのかもしれないが。
「……………」
ここに頬を膨らまして、あからさまにゴキゲン斜めの子供がいる。
「アキスケ、ほら、朝ご飯食べろ」
「……………」
今日はアキスケの通う保育園の遠足だったのだが、あいにくの天気により中止になってしまったのだ。
普通なら雨天順延となるところ。
しかしこの雨、順延が繰り返されて4回目の遠足予定日だったのだ。
つまり本来の遠足は1ヶ月前ということ。
毎週、毎週大雨が続き、ついに今日中止が決まってしまったのだ。
「ほーら、アキスケの好きなポタージュ作ったよ」
ケイスケが小さなマグカップを持ってきた。
しかし好物を目の前に置かれてもアキスケは表情ひとつ変えることはない。
「いい加減にしろ。雨が降ったんだから仕方ないだろ。遠足は諦めろ」
頑なに黙り込んだアキスケをアキラが強めに叱る。
「ア、アキラ」
「いつまでも拗ねたって意味がない。遠足は中止になったんだろ。早く朝メシを食べろ」
するとみるみるアキスケの顔が歪み、赤い瞳から大粒の涙がボロボロとこぼれだした。
「アキラ、言い過ぎだよ。アキスケが遠足楽しみにしてたの知ってるだろ?」
「なんでこうも毎週遠足当日に雨なんだ」
アキラが頭をガシガシとかきむしりながらため息をついた。
アキスケはその隣で小さくなり、涙をこぼしながらスープの入ったマグカップをすする。
「悪い…。ちょっと言い過ぎたな」
あまりにも落ち込んだ様子のアキスケを見て、途端にさっき怒ってしまったことを後悔した。
アキスケの頭を撫でながら、涙と鼻水を拭いてやる。
「お弁当、ちゃんと残さず食べるんだぞ」
ケイスケが保育園バッグをアキスケに渡す。
「ケイスケの作ってくれるお弁当ね、いつもみんなが「すげー」ってうらやましがるんだ」
鼻を赤くしながらアキスケが笑った。
アキスケのお弁当はいわゆるデコ弁。
テレビアニメのキャラクターなどがお弁当の食材で見事に描かれている。
ちなみに今日は電気を発するネズミだ。
バッグを肩からかけて、カエルの長靴とお揃いの傘を装備して身支度は完了。
「いってきます」
「アキスケ」
アキラがドアに手をかけたアキスケを呼び止めた。
「今度の休み、弁当持ってどっか行くか」
「!……うん!!!」