「あ…ジャン、さん…今、いいですか?」
遠慮がちにジュリオが話しかけてきた。
声が上擦って、妙にそわそわしている。
俺は読んでいた報告書から目を離し、ジュリオを見た。
「何だよジュリオ、改まって」
「……………」
こいつ、俺と二人の時でさえ、未だに“さん”付けするクセが抜けてない。
椅子の背もたれに深く体をあずけて左右にクルクル動きながらジュリオの言葉を待つ。
「あ、の…ジャンさんは、俺のって、どう…です、か?」
「はぁ……?何のことだ?」
主語が思いっきり抜けた問いかけに、意味が理解できず聞き返した。
「俺…の、小さく……ないですか?あの、ジャンさんが物足りないんじゃない、かと思って…」
「だから、何の話だよそりゃ?」
「俺の……、…です」
ジュリオが口の中だけでもぞもぞと呟く。全然聞こえない。
何だ……?小さい?物足りない?
……………。
あー、もしかして…チ○コのサイズの話か……?
「ずっと、気になってたんですけど…なかなか聞けなく、て…」
眉尻を下げながらジュリオが俯いた。
……そんなことを真剣に悩むあたりジュリオらしいというかなんというか……。
「いや、俺はな…」
「それで、ですね、俺、ジャンさんにプレゼントがあって」
パッと顔を上げて、ジュリオが箱を俺の顔の前に突き出した。
「なんだ?コレ」
受け取って箱を開けると、中には……。
「な、何だよ…コレは……!?」
巨大なバイブが入っていた。
しかもイボイボがたくさん付いてて、カリの部分がかなりエグい…っ!!
「アメリカの大手オモチャ会社と提携し、ボンドーネ家の財力を駆使して開発しました。その名も“疲れ知らず ルッキーノ君”です」
おいおい。大手オモチャ会社って何のオモチャ作ってる会社だよ…。
いくらボンドーネ家に財力があるからって、散財してどうする。
お前の代で終わっちまうぞ。ボンドーネ家。
しかもこのオモチャ…余裕でジュリオの腕ぐらいあんじゃねーか。
こんなもん入るわけねーだろ…。
これじゃあフィストファックだぜ。
「あのなぁジュリオ……」
俺はアタマをがしがしと掻きむしりながら椅子から立ち上がる。
「は、はい…」
「こんなもん要らねーよ!」
「あ…す、すみません……。気に、入りませんでしたか…?」
箱を突き返されて、ジュリオの表情があからさまに消沈した。
「何でこんなもん…」
そういや、前にも同じ様なことがあったな…。
確か……そうだ。ジュリオとセックスする時。挿入直前にいきなりアイツが…
「ジャン、さん…」
「な、んだ、よ…ん、もう…は、早、く…入れろっ、て……」
「あの、俺……早くないですか…?リング、とか、着けましょうか…?」
「………いっ、いらねーよ!バカ!」
そのあとおもっくそケンカになったんだったな…。
俺が一方的に怒っただけだったけど。
俺が回想してる間もジュリオは泣き出しそうな顔をして、俺の様子を窺っていた。
「あ……俺、ジャンさんに…少しでも、気持ちよくなって、欲しくて…」
そこまで聞くと、俺はおもむろにジュリオに近づき、やつのマフラーを力いっぱい引っ張ってやった。
そしてその拍子によろめいたジュリオの口を自分の口で塞ぐ。
「んっ……ん、ふ、ジャ、ン……さ、…ちゅ…う…」
「ん、む……はぁ、バカ……この、バカジュリオ……」
唇を離すと、両手でやつの端正な顔を挟むようにして軽く頭突きをしてやった。
「あ……う」
「ったく。お前なぁ…違うだろ?俺だけが気持ち良ければそれでいいのかよ。もし俺だったらそんなん嫌だぜ?どっちか一方しか気持ちよくないセックスなんてそりゃセックスじゃねーよ」
「……………」
オデコをさすりながらジュリオが俺を見た。
くそ。キレイな顔しやがって。
地位も名誉も金もある名家ボンドーネの当主だぜ。
そして泣く子も黙る(かどうかは分からんが)、CR5の幹部マッドドッグだぜ。
なのに何で俺の前ではこんなに情けない顔ができるんだ。
「お前、俺のこと好きなんじゃなかったのかよ」
「…!好き、です…。大好きで、大切で、一番、です……」
「だろ?だったら、俺も同じなんだよ」
「あ……ジャ、ン……」
「俺だってお前が好きだよ。だから気持ちよくなって欲しい。二人で気持ちよくなりてーじゃん。俺だけじゃなくて。俺で、お前にも気持ちよくなって欲しいんだよ」
「は、はい……あの、ジャンさん、すごく気持ちいい、です。俺、すぐ…に……」
「こんなもん使わなくたって、俺は十分満足してるぜ?第一、俺がいつお前のサイズ云々に不満を漏らしたよ?」
鼻を鳴らしてジュリオを睨む。
それから俺は今度は椅子ではなくデスクの方にどっかと尻を乗っけて座った。
「いえ……あの……」
ジュリオは再び口ごもったが、観念した様子で口を開いた。
「この間、シャワールームで……たまたまルキーノと一緒に、なって………」
「……………」
……なるほどな……。
そりゃルキーノと比べちゃ誰だってヒヨコだぜ…。
だからオモチャも「ルッキーノ君」ね……。
でもこのバイブはないだろ。
デカすぎる。
いくらなんでもコレは無理。
「で…?もしも俺がコレ使って、ハマっちゃってさ。今度はお前、ルキーノとセックスしだしたらどーすんだ?」
「あ……それは…その時、…は…」
ちょっと意地悪な質問だったかな。
まあ、ちょっとしたお仕置きってことで。
「その時は……ルキーノを、生かしては、おかない、ですね……」
「……………」
ジュリオの双眸がわずかに光った。
うん。こいつならやりかねん……。
俺は顔をひきつらせながら、渇いた笑いでその場をごまかした。
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