♪
どんなときもー
どんなときもー
ぼくがぼくらしくーあるーためにー
♪
ピッ
「もしもし。あ、はい。…え?はいはい、それは大丈夫です。はい、…はい、わかりました~。はーい。了解しました。はい、失礼します」
ピッ
「誰?」
「工場長」
「なんでそんな着うたなんだ」
「俺が俺らしくあるためだよ」
「…………」
ちなみにアキラだけは着うた変えてる俺。
曲は大塚愛のさくらんぼ。
そういえば…。
アキラはどんな着うたなんだろう。
アキラがあんまり携帯いじってるの見たことない。
「なあ、アキラは着信音とか変えてるの?」
「変えてない」
「アキラ、変え方知らなそうだもんな」
俺が笑うとアキラは少しムッとした顔をした。
「別に知らないわけじゃない。面倒くさいだけだ」
「ふーん」
じゃあ誰からかかってきても同じなんだ。
なんかちょっと寂しいかも。
その時、アキラの携帯が鳴った。
♪
ジングルベール
ジングルベール
クリスーマスー
♪
「あ」
「アキラ!?」
ジングルベルだと!?
「…もしもし…どうも。…大丈夫です。え?あ、それ俺じゃないです。はい。 いえ、はい。それじゃ」
「誰…?」
「田中さん。ロッカールームに忘れ物あったらしいけど、違うかって」
「そうなんだ…」
しばらく沈黙。
「てかさ、変えてんじゃん着信音…」
しかもクリスマスソングって。
めちゃくちゃ季節ものじゃん!
「別にいいだろ」
開き直った…。
意外に携帯使いこなしてるんだな。
てことは…。
♪
さークリスマスー
たのしーなー
ソリにーのーりー
すずならしー
♪
アキラが弾かれたように顔を上げて俺を見た。
目をひんむいてる…。
「サンタが町にやってきた…なんだ」
俺からの着信音。
「おっ、おまっ、お前っ!ふ、ふざけるなよっ!!」
アキラの顔がみるみるうちに真っ赤に染まる。
耳まで真っ赤だ。
「もーいい!俺は旅に出る!」
アキラが立ち上がる。
「アキラごめん。てゆーか旅に出るって意味が分からないし」
「じゃあ山にこもって天狗になる!もうお前の顔なんか見たくない!!」
「アキラ」
「うるさい!」
アキラが玄関に向かう。
「アキラ」
俺はアキラを後ろから抱きしめた。
「アキラ」
「離せっ」
振りほどこうともがくけど、俺は離さない。
しばらく暴れていたけど、やがて観念して大人しくなった。
「アキラ」
「しゃべるな」
「アキラ」
アキラの首筋に軽く唇を落とす。
「俺はやっぱりアキラのサンタなんだね」
「笑えばいいだろ」
「笑わない。嬉しいから」
「…………」
「アキラ、好きだよ」
後ろからだから、表情は見えなかったけどアキラがうつむいた。
「ごめんね、アキラ。出て行かないで」
「もういいから離せよ」
「出て行かない?」
「ああ…」
俺はもう一度アキラにキスして、アキラを抱きしめる腕を緩めた。
「もう寝る」
「うん」
アキラはすぐに布団に潜り込んで、一言も喋らなかったけど、俺はニヤニヤが止まらなかった。
「俺、絶対アキラが喜ぶプレゼントするからね」
「…………」
クリスマスまであと11日。
アキラ可愛い。