今朝、工場長から電話があった。
なんでも工場長の奥さんの実家から、みかんが大量に届いたらしく、食べきれないから貰ってくれということらしい。
とにかく大量でハンパないということなので、力仕事担当のケイスケに取りに行ってもらった。
「なんでこんなに貰ってきたんだ」
「くれた…から?」
ケイスケが持って帰って来たみかんはダンボールの大箱2箱。
箱の大きさは…俺が余裕で入るくらいの大きさだ。
「工場長の家、大変なことになってたよ!」
ケイスケひとりにこれだけの量のみかんが渡せるんだ。
従業員全員に配ろうとしてるなら……
途中で考えるのをやめた。
「じゃあ早速お風呂を沸かして、みかんを浮かべよう!」
「は?」
「は、じゃないよ!みかん食べるだろ?」
ケイスケは何を言ってる?
風呂にみかんを浮かべる?
なんだそれ?
「みかん風呂…やらないの?」
「みかんが温まっちゃうだろ」
「そっちの方が甘くて美味しいんだよ、知らないの?」
「みかんはすぐ冷凍だろ!」
「凍っちゃうじゃん!」
「そのために冷凍するんだよ!」
「邪道だよ!?」
「それはお前の食べ方だろ!」
「冷蔵庫はピノで一杯だからもう入りません!」
「じゃあ今すぐピノ食べろよ!」
「なんで!?」
みかんの食べ方で喧嘩に発展した。
ケイスケはいかにも不満そうな顔をしている。
でも絶対おかしいだろ、みかんを温めて食べるのは。
風呂に入ったら無数のみかんが湯船に浮かんでいた。
「……………」
あいつ…。
絶対当てつけだな。
変なところで頑固というか、意地っ張りというか。
体と髪を洗って湯船に浸かる。
みかん…鬱陶しい。
けど…いい匂いがするな…。
「……………」
プカプカ浮かぶみかんをひとつ手に取る。
湯船に沈めてみた。
ぴょこんっ
すぐ浮かび上がってきた。
面白い…。
思わず3回も繰り返してしまった。
「みかん…うまいのか…」
ケイスケが、温めた方が甘くてうまいって言っていた。
「でも…」
温かいみかんなんて食べたことないし。
気持ち悪い気がする。
「まあ、気にならないこともないけど…」
みかんを見つめる。
風呂から上がるとケイスケがみかんを食べていた。
「アキラ!冷凍みかん美味しいね!」
しゃくしゃくと美味そうな音を立てている。
「こんな食べ方初めて!結構クセになりそ~」
食べたのか。
冷凍みかん。
「アキラも食べるよな?お風呂上がりにはちょうどいいかもね」
冷凍庫からみかんを取ろうとした。
俺はそれを制した。
「ケイスケ、いい」
「え?」
不思議そうなケイスケに、風呂場から持ってきたモノを見せた。
「あ…」
「温かいみかんうまいな」